女生徒 (角川文庫)

女生徒 (角川文庫)

中学の国語の教科書に載っていた「走れメロス」のまっすぐな友情物語が、思春期のひねくれた子ども(私ね)には眩しすぎてどうにも苦手で、太宰治は実は読んだことがなかった。恥ずかしながら、この年になって初太宰。どうして食わず嫌いをしちゃったのかなぁー。35年前の自分、バカバカバカ!
この文庫本に収められている14編すべて、女性の一人称で書かれている。往々にして男性作家が描く女性像は「こんな女いねぇよ!」と腹が立つくらいにべたーーっねちょーーっと気持ち悪くなりがちだけど、さすが太宰。びっくりするくらいリアルに「女性」なのだ。さらに時代も違うというのに、なんだろうこの違和感のなさは。
とくに「きりぎりす」がすごい!売れない画家と結婚した女性が、ひょんなことから夫の絵が売れ出して、お金に不自由しない生活にはなったけれど、どんどん俗物化していく夫に耐えられなくなり別れを切り出す女性には、心の底から共感してしまう。経済的に豊かになったんだし、夫が多少嫌な男になったとしても、楽して贅沢に暮らせばいいっしょ、と思う女性もいると思うけれど、手のひらを返したように人を見下して尊大になっていく夫を軽蔑しながら結婚生活を送るくらいなら、きっぱりと別れたいと思う女性も確かにいるんだよ。
なんだか、アホのような感想しか出てこないけれど、本物の文学って何年経っても色あせないし陳腐化しないんだよなぁ…とつくづく思った。