秋刀魚の味(006)

監督:小津安二郎
出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡田茉莉子

小津映画は「娘の結婚について」を中心にストーリーが展開していく作品が多くて、これも以前に見たような見ていないような…。
今回見て感じたことは、当時(1962年公開)のサラリーマンの生活レベルの高さ。おそらく工場の事務所で働いている笠智衆演じる父親は、会社で自分の部屋があるからきっとけっこうな役職だろうけど、映画の中では田舎の親戚が病気になったのでしばらく来れないということで登場はしないもののお手伝いさんがいて、息子夫婦(佐田啓二岡田茉莉子)が冷蔵庫を買うから5万円貸してくれというと(当時の大卒男子の初任給が16,115円)あっさり「ああ、いいよ」と出してあげるという余裕のある暮らしぶり。
旧制中学の同級生が集まって恩師を招いて開いた同窓会で、お吸い物を食べた恩師ひょうたん(東野英治郎)が「これは何ですかな、ほう、ハムですか。ああ、鱧ですか、そうですかこれが鱧ですか。なかなか旨いものですなぁ。さかなへんに豊と書いて鱧」と感心するのを、「ひょうたん、鱧を食ったことがないのか」と嘲笑する場面も印象的だった。今は社会的地位を得ている教え子たちと、路地裏で娘としょぼいラーメン屋を営んでいるひょうたんとの差をリアルに描いたのは、何か意図するところがあったのかな。
そして岩下志麻がとにかく美しかった。花嫁衣装姿はもちろんだけど、それよりも家にいて普段着でアイロンをかけたりしてるところが、くらくらするくらい綺麗だった。